2014年04月17日

ひょっくり芋

 久々に食べ物ネタです。私が子どものころ、母親からおやつ代わりに与えられた「ひょっくり芋」という神奈川県央の言い方の「きぬかつぎ」の話です。里芋は秋が旬ですが、私の記憶の中では、竹の子とともに山椒の葉が瑞々しく生えてくるこの時期の食べ物というイメージに固まっています。山椒の葉の香りのよい時期は十日前後で、葉が大きくなると香りは淡くなって、風味に欠けます。この生きのよい山椒の葉を刻んで、しょうゆを差し、蒸かしたての小ぶりの里芋を指で押しだして、ちょっと山椒じょうゆにつけて食べるというシンプルこの上ないシロモノ。このときの押し出す様が「ひょっくり」という言葉になったようです。
 実家は、かつての農村地域で、農家は里芋も出荷していたはずです。隣家は父の実家で兼業農家だったので、出荷できない小ぶりの里芋をもらうことがあり、春先の山椒の時期に掘り出して「ひょっくり芋」にしていたのだと思います。考えてみれば当時の暮らしぶりは貧しく、半端な野菜をもらうことで、生活の糧にしていたのですね。今では実家でも食べない「ひょっくり芋」を私はこの時期に小ぶりの里芋を見つけると、必ず食べることにしています。しょうゆではなく味噌を付ける地域もあるようですが、山椒としょうゆだけのシンプルさが香りを何倍にもして、口の中に広がる幸福感は何とも言えず、貧しいどころかとても贅沢な味が、ずっと我が家の定番になっています。(EOS 7D)


里芋はなるだけ小ぶりがいい 最近なら丸い石川芋がいい
ふつうの里芋は頭をちょっと切り落とし、中央の周囲に包丁で切り込みを入れておく
電子レンジは水分が飛ぶので御法度、蒸かし鍋で20分ほど、充分に水分を補給する


山椒は極力若い小さめの葉を摘んでくる
(妻の実家に山椒の木がある)
葉を一枚一枚にして、食べる直前にみじん切りにする


うまく蒸かすことができていれば皮はすんなりむける
山椒の香りが周囲と口の中に充満し、アツアツのねっとりした芋の食感と相俟って至福のとき
もちろん、日本酒が近くにあるのは言うまでもない

芋ふかし 山椒の香で ひと呑みす