◇その年の山陰の旅は、私にとってどこかセンチメンタル・ジャーニーであった。
境港から隠岐への連絡船で、作詞家と名乗る少し怪しげな男といっしょだった。
宿は別だったが、夜、彼のいる旅館に招かれ、飯と酒をご馳走になった。
えらく、羽振りが良さそうである。仲居さんに大きなお札を渡していた。九州の実家へ帰る途中だという。
酔いながら、原稿用紙を取り出して、何やら書き出している。
彼がその後、有名になったかどうかは、とんと知らぬ。
隠岐の漁村と素朴な人々の表情を懐かしむと同時に、
この得体の知れぬ三十男のことを想い出しては、過ぎし日々を苦笑してみる。
1979年8月28日、29日撮影
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