◆私はまだそのとき、二十代の前半だった。春がまだ遠い三月、鉛色の空、古い家屋、消えない雪、寡黙な人々、そんな北陸の山の中を訪ねた。高岡から城端線で終点の城端駅に着いた途端に、時計はみるみると逆回転を始め、見知らぬ過去の街に連れ戻されていったのだった。ここの人々の暮らしはある時点でストップしてしまっていた。合掌造りの民家には年寄りばかりがいる。たまにくる旅人を泊めたり、小物の行商を招き入れているだけだった。そんな遠い過去に辿り着いた私は、深い安堵を覚えたのだった。
1979年3月10日、11日撮影

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