◆京都府の北部、丹後地方の「伊根町」という漁業を中心とした小さな町があるのをご存知でしょうか。日本三景のひとつ天橋立より少し北にあるこの町には、伊根湾に沿って「舟屋」と呼ばれる小屋が密集して建ち並ぶ海辺の地区があります。
 
 人々ははじめ山側に住んでいましたが、クジラやブリ、マグロが豊富な海にすぐに出られるよう、より海に近いところに生活の拠点を移します。しかし、土地が極めて少ないため、人々は小屋を海沿いにびっしりと並べて建てるようになりました。また、潮の干満の差が少ないなど船を出し入れしやすいのも利点でした。人々の生活の知恵です。江戸時代にはだいたい現在の舟屋群のかたちができあがったようです。
 舟屋独特のスタイルですが、一階は、海に向かって開放されており、木造である船を乾燥させる必要や船に穴をあける「ふなくいむし」の被害から守るための格納庫になっています。二階は居住スペースになっています。舟屋の背後の陸側に、道を挟んで舟屋と対になって母屋があり、ふつうお年寄り夫婦が母屋に住み、舟屋の二階は、若夫婦や子どもが住んでいたり、その逆もあり、現在は民宿にも利用されています。

 この舟屋の風景が創りだしている独特の雰囲気に心が囚われるのは、他の地域ではすでに失われてしまった日本の昔懐かしいふるさとの風景がそこにあるからではないでしょうか。小さな共同体として多くを求めることなく、つましく誠実に暮らしてきた人々の生き方の結晶が舟屋という形で美しく残っている気がします。

 以前、NHKの朝のドラマ「ええにょぼ」の舞台にもなった場所で、あの舟屋の建ち並ぶ独特の景観が私の記憶の底にずっと残っていました。厳しい寒さの冬の日本海の様子も見ておきたい、という思いも重なり、雪の舞い散る丹後地方に車を走らせたのでした。
EOS 5D / EF24-70mm f/2.8L USM / EF70-200mm f/2.8L USM
2008/01/22-2008/01/24撮影 31photos
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