政党政治の終焉 |
2011/12/27(火)
今年もいよいよ残すところわずかである。振り返ることの多いこの時期、今年は何といっても東日本大震災、福島第一原発事故が念頭にあってモノゴトを考えている気がする。すでに9ヶ月が過ぎ、復興の兆しが出始めているのであろうか。遠くから思いを馳せるだけで現地へ駆けつけることもできない自分の不甲斐なさも感じつつ、他にも気がついたことをキーワードをまじえながら記してみたい。
今回の震災では「想定外」という言葉を用いて、津波の規模の把握や原発の全電源喪失時対策などに対して、何もできなかったことを弁解をし、責任を逃れてきた気がする。本当に想像すらできなかったことなのか、過去の歴史を深く紐解く調査が現在も続いているはずだが、地震大国日本はすべての過去を洗い出して、現代への確固たる対応がもっと早くできたのではないか。技術立国日本は何を怠っていたのか、徹底的な検証と今後の対策が必要となる。
そして、福島第一原発事故で「健康に直ちに影響はない」という国民の不安と不満を増長させた枝野官房長官の言葉。その後、さまざまに使用されることになる「直ちに影響はない」という不毛の言葉。無論、良かれと思い手短に国民を落ち着かせるはずの言葉だったが、大いに逆効果になってしまった。データがあるものは、即刻、情報開示と数字を示し、説明して、国民に判断材料を提供するべきであった。文部科学省は放射能拡散予測(「SPEEDI」)情報をすぐに流せば、被爆せずに避難できた子どもたちが多いはずだ。「SPEEDI」とは何とも皮肉な略称だ。東京電力の放射能漏れの情報開示は現在でも不十分なままである。東京電力の体質は、官僚以上に硬直化し、まずいことは隠蔽することしか考えていない。
そして、放射線量や放射能を表す「シーベルト」と「ベクレル」という言葉が飛び交った。意味の違いはわかるようになってきたが、一体どのくらいの量の放射線を受けたら、体にどの程度の影響があるのか、いまだによくわからない。国際放射線防護委員会の勧告では、一般人は放射線量が年間1ミリシーベルト以下が平常時の基準だが、健康に影響を及ぼすかどうかの基準ではないので、専門家の間でも議論が分かれる。幼い子を持つ母親が神経質になるのは当然で、これまで存在しなかった悪影響のある目に見えない物質が、あちこちにばらまかれている以上、ほんの少しでも、汚染されている場所にはいたくないし、汚染されている食べ物を子どもに与えたくない、と思うのは当たり前のことだ。世界の全知を使い、明確な数値を示す必要がある。例えば糖尿病に対するカロリー摂取の細かな数値化のように、年齢や体重、病気の種類別に納得できる基準を作り、国民に冷静に対応できる安心感をもたらさねばならない。
この震災後の復興の司令塔となる「復興庁」が来年2月を待たなければ発足しない、というこの恐るべき対応の遅さには、被災者及び国民は落胆している。関東大震災が起きたときには、その月のうちに復興院が発足している。今回の震災が首都ではなかったから遅くなったわけではない。
日本が震災と原発事故の対応に追われる中で、世界は大きく揺れ動いている。「アラブの春」と言われるチュニジアを発端とするアラブ世界の反政府運動が活発化し、多くの国の政権が倒れ、新しい国を求めて模索が続いている。ヨーロッパでは、ギリシャ国債の「デフォルト(債務不履行)」危機に象徴されるユーロによる通貨統合経済の失敗がいよいよ深刻化してきており、世界経済へも大きな懸念材料となっている。アメリカでは期待されたオバマ大統領が結局のところリーマンショックから脱却できず、「TPP」などにより、自国の製品を輸出することにより経済を立て直そうとする策しか思い浮かばないようだ。イギリスやアメリカでも発生している「反格差社会」運動は、これまでのアメリカを中心とした「新自由主義経済」が崩壊し、「非正規雇用」の労働者が路頭に迷う社会に陥ったことなどが大きな原因となっている。日本においても雇用は悪化し、「生活保護」受給者が205万人を超え、戦後の混乱期以来の数にのぼった。
さて、改めて日本のことはどうか、というと民主党政権が発足して2年余り、この政権の下では何ひとつ判断も決断もできない最悪の国へ貶める結果となってしまった。民主党は、所詮絵に描いた餅のマニフェストにこだわるあまりに、多くのものを失い、国民の信用を失った。2年前の夏、国民は自民党政権に愛想をつかした結果、実力未知数の民主党を選択してしまった。民主党のマニフェストが素晴らしかったから選んだというより、そのときの自民党よりはマシかもしれないとの期待感のみで票を投じた人が多いのではないか。民主党は選挙で大勝利を収めたが、政権与党としての役割や意見を持つことができない個人個人が好き勝手なことを言う素人集団と化してしまった。震災からの復興も遅々として進まず、被災者は今後の人生をどう歩むべきかも判断できないでいる。現在の課題は、「社会保障と税の一体改革」で消費税の増税の税率や時期の結論を年内にまとめるとしたが、「八ッ場ダム」工事継続を政府が決定してしまったことで、それを理由に議論を先送りにしようとしている。「TPP」のときも結局党としての結論は出さず、政府に一任することにしてしまったし、「普天間基地移設問題」については、誰も触れたくないようだ。民主党の国会議員の多くは、国民に子ども手当てなどいいところは見せたいが、国民に負担を強いる課題からは逃避し続けて、問題を先送りしようとする。反対であれば、それを表明し、しっかり離党して新たに政党でも何でもつくればいい。しかし、それもできない。小沢さん一派は、民主党から出て行くなら、早く出た方がいいだろう。この人物によって、自民党時代から選挙しか頭にない国会議員が多数を占めてしまい、国政の行方を心から憂慮し、行動する真の政治家がこの国からは消えてしまったと言ってもいいだろう。11月末に行われた大阪府知事、大阪市長選挙で、橋下さんが率いる「維新の会」が勝利し、既成政党が与野党こぞって応援した現職の大阪市長は敗れた。橋下さんの掲げる「大阪都構想」が素晴らしいのではない。民主党、自民党、そして共産党も相乗りするような選挙や既存の政治のあり方に府民、市民はうんざりしたのである。橋下さんなら変えてくれるかもしれない、という期待感が大阪を超えて高まったようだ。選挙後、橋下さんに擦り寄る既成政党の党首や実力者たちの満面の笑顔をよく覚えておきたい。選挙に勝てるなら、昨日の敵にも組するような政治屋の集団に明日はない。ルールとしては存在していくかもしれないが、日本の「政党政治」はここに終焉を迎えたと言わざるを得ない。
世界が長い低迷期に突入し、日本は震災と悪政によってさらに追い討ちをかけられている。舵取りのいない漂流船は、どこにたどり着くのか、国民にとって2012年はさらに暗い幕開けとなりそうだ。
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